2022-11-30

上野農場について

新潟市北区で営農している上野農場の上野晃さんは人田畑はもちろん、新潟の自然栽培のみならず有機栽培シーンの超重要なキーマンです。
いつも農家の紹介は「農家が農家に聞く」というスタイルでしたが、今回は少し部外者である人間が上野さんについて書いてみようと思います。

私の本業は「マリールゥのパンケーキミックス」という商品の製造販売ですが、長らく新潟の自然栽培農家の皆さんのサポートとして、毎月第4日曜日に新潟県新発田市月岡で開催されているオーガニックマーケット「おひさま日曜市」の主催、人田畑の業務のサポートなどの活動を続けています。
上野さんに出会ったのは、玄米菜食の飲食店「café marilou」を運営していた頃なので10年ほど前でしょうか。
当時はコシヒカリの玄米を提供していたのですが、アミロペクチンが多くもちもちとしたコシヒカリの玄米がとても重く感じており、低アミロペクチンであっさりとしたお米のササニシキを使いたいなと思っていました。
できたら新潟県産で…と探していたのですが、当然の如くコシヒカリ王国の新潟ではコシヒカリの他は早稲品種のコシイブキぐらいしか選択肢がなく途方に暮れていました。
お米をお願いしていた上野さんに、年間でも30kg袋を10袋そこそこしか使わないにも関わらず、恐る恐る「ササニシキの栽培なんてお願いできたりしますかね…?」と聞いたところ、「おもっしぇそうだっけ来年からやってみるさ!」と快諾してくださいました。
それから上野さんはササニシキの栽培を皮切りに、今では明治時代に育成された亀の尾、ササニシキの親に当たるササシグレ、コシヒカリの親に当たる農林1号と農林22号と様々な古い品種のお米を栽培しています。
お願いしておきながら…なのですが、当時は商売的に大丈夫だろうか…と心配していたのですが、多様性を求める時代の後押しもあってか、今ではそれらの品種も上野農場の大切なラインナップとして人気のある商品となっているようです。

上野さんは新潟県の有機栽培のパイオニアとして2001年から有機栽培に取り組んでいました。
また「合鴨農法といえば上野農場!」と言われるくらいに全国的にも名を馳せていたようですが、木村秋則氏と自然栽培に出会い、合鴨農法から2009年から自然栽培にシフトします。
さらに近年では育苗の方法を、一般的に広く使われているマット苗からポット苗に変更、栽培品種のこともそうですが、高齢になればなるほど保守的な考えに凝り固まる農家が多い中、常にベストを追い求めて自己革新・技術向上をし続けられる姿勢は本当に凄いことだと思います。

さて、皆さんは新潟県は「緑の砂漠」と一部で言われているのをご存知でしょうか。
広大な新潟平野に広がる田んぼ、そのほとんどの畦道では除草剤が撒かれ、茶色く変色しています。
青々とした稲の中に広がる茶色い畦道…そんな異様とも言える姿を揶揄して「緑の砂漠」と呼ばれています。
新潟に暮らす私たちにとっては当たり前の景色ですが、県外に出ると意外に緑の畦道が多いことに気がつきました。
しかし田んぼと畦道の除草作業というのは、それだけ農家にとっては大変な作業なのです。
除草の手間を惜しまない上野さんの田んぼの畦道は、農薬を使わないので青々としています。
そこは周囲の田んぼにはいない、たくさんの生きものの住処になっています。
ある日、私が上野さんの田んぼに遊びに行くと、信じられない光景を目にしました。
周りの田んぼに一羽たりとも見かけなかったのに、上野さんの田んぼにだけたくさんの鷺が餌を求めて群がっていたのです。
この光景には本当に驚きました。
実は上野さんの田んぼの畦の内側にはもう一つ畦が立ててあり、畦と畦の間にビオトープ(生物生息空間)が形成されていて、青々とした草と共にたくさんの生きものがここには生息しているのです。
しかし田んぼの面積を減らしてビオトープを作るということは、農家にとっては収穫量が少なくなるという結果をもたらします。
上野さんはたとえ収穫量が減ったとしても、田んぼの生物多様性をとても大切にしています。
夏には蛍が舞うこともあるそうです。

上野さんは自分のことだけではなく、常に若い農業者達がきちんと生業として環境保全型農業を選択できるように、ものすごい熱意を持って、自らが実験と実践を積み重ねながら道をさし示し続けてくれています。

そうそう、上野農場といえば陰で支える奥様のたかこさんの存在も忘れてはいけません。
今でも我が家では自家用のお米を上野さんにお願いしていますが、娘が毎回楽しみにしているのが、たかこさんの筆による「クロネコよしおさん日記」です。
とても温かく優しい目線で、上野家の日常が描かれています。
そして「おひさま日曜市」では、いつも上野さんとたかこさんが仲良くならんでお米を販売する姿が見られます。
何気ないやりとりを聞きながら、こうやって上野農場を2人で築き上げてきたのだなぁ、なんてしみじみ感じたりしています。

農機具と車が大好きな上野さん、今年には中古でマツダロードスターを購入、お米の配達はロードスターで颯爽と現れます。

上野さんは新潟を代表する篤農家の一人だと思います。
ぜひ機会がありましたら、お米を召し上がっていただいたり、人田畑のイベントやおひさま日曜市などでその人となりに触れていただけたらと思います。

LINK:上野農場

文:鈴木誉也(marilou / おひさま日曜市

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