
経営と循環型農業との融合を目指して、田上町の「株式会社ミクリ」
理想の社会の実現に向けて進みつつ、現実的な経営や数字を見ていかなければならない、という悩みは特にオーガニック関連のお仕事をしている方に多いのではないでしょうか。そこをどう融合させていくのか、どうバランスをとっていったらよいのかを人田畑の代表理事も務める株式会社ミクリ代表取締役社長の船久保さんにインタビューしました。

現実面での苦労があるけれども、我々がやりたいことを忘れないように
―以前から気になっていたのですが「ミクリ」という社名の由来を伺いたいです
船久保さん:もともと「ふなくぼ農園」っていう屋号だったんだけど、株式会社にしようっていうタイミングがあって。その時に石田っていう小中学生時代の同級生と一緒に法人化を決意したんだよね。お互い生き物好きで一緒にやろうって盛り上がったんだけど、彼は水草の研究を学生時代ずっとしていて、おれも水草が好きで。お互いに好きな水草に「ミクリ」っていうのがあってそこから社名を決めました。
―好きな水草が社名の由来だとは思っていなかったです
船久保さん:どうしても株式会社の中でいろんな現実面での苦労があるけれども、我々がやりたいことを忘れないようにということで、好きな水草から名前をいただきました。
―法人化のタイミングでビニールハウスを新たに6棟借り入れて建てたのですよね
船久保さん:そうそう。葉物野菜をメインで栽培しているんだけど、普通なら葉物野菜は1年間で8サイクルぐらいするんだよね。でもうちらは3サイクルぐらいマックス限度かな。
何サイクルも回転させたほうが儲かるのはわかるんだけど、数字のために自分たちのやりたくないことをやるという価値観ではないんだ。
もちろん、数字は経営をする中でちゃんと追う、時にはそれが必要かもしれないけれど優先順位はそれが一番ではないです。

自然環境をうまく使いながら、それが事業になって喜んでもらえる
―ミクリの描いている夢と現実的な資本主義のせめぎあいを感じています。その中でミクリが思い描いている“夢”を伺いたいです
船久保さん:「将来こんな未来になってほしいというイメージを絵にかいてごらん」って子どもたちが言われた時に、絵で表現したイメージだよね。再生可能エネルギーを活用して山や河川の中で人々が楽しそうにくらしていて、現代社会のいいとこ取りみたいな。
人が自然を大事にしようっていう気持ちがなきゃ自然ってなくなってしまう。現代のテクノロジーで自然災害を減らしていきつつ、でも自然環境が増えていくような、自分たちが和やかな暮らしをしているようなイメージを描いています。
―鮮明にイメージが伝わってきます
船久保さん:昔は人間なんかいなくなった方が生き物のためには良いんじゃないとさえも思ったこともあった(笑)。生き物好きはこの領域にいきつくんだけど、それはちょっと違うなって。
人も生き物も一緒に自然の中で楽しく暮らしていることが大切。自然環境をうまく使いながら、それが事業になって喜んでもらえる、っていうことじゃないと自然を守りながら育てるってことはできないよね。産業として自然を上手く活用していくっていう仕事を作っていきたいね。

Contribution to creative life based on regional nature
―壮大な夢を実現するためにどのような経営理念をかかげているのでしょうか
船久保さん:おれは英語苦手なんだけど(笑)。“Contribution to creative life based on regional nature”を石田と話し合って経営理念に策定しました。どういう意味かというと、それぞれの人がそれぞれの地域の自然に根差したくらしをやりつつ、そこに「創造的」という観点を加えていって社会に貢献できたらいいよね。
今は田んぼや畑や養鶏とか、いわゆる循環型農業を基盤としているけれども、林業や狩猟とか魚の養殖とかもっと一次産業的でかつ循環型農業の中に入っていくような。これは1人じゃできなくて仲間が必要だから、それで会社にしたんだ。

―そこまで包括しているアプローチは聞いたことないですね
船久保さん:葛藤することだけど、一般栽培で反収20俵お米が収穫できたとして、自然栽培の田んぼで5俵しか収穫できませんでしたと。4倍採れるんだったら、田んぼ1haあるうちの2反(0.2ha)をビオトープに変えてもいいんじゃないかとも思ってる!
アプローチの仕方はいろいろあって1つじゃないんだよね。
―たしかにこの手の話は0か1か、白か黒かという話が多いような印象があります。
船久保さん:都市に住んでいることは悪いことじゃないし、我々農家は都市の方が消費してくれるから我々の生活があるわけだし、東京から新潟まで全部地続きで住宅地っていうのはいい加減にしてよぉってなる(笑)。
―想像したらゾっとします(笑)
船久保さん:都市に住んでる人達もそんなあくせくしてないで、日が昇ると同時に仕事始めるとかさ(笑)。そういった価値観も一つアリだと思う!(笑)

インタビュアー:みなみ農園 田村勇樹